
シリーズ: Claudeで変わる仕事術 上級・第2弾 / 前回:上級・第1弾 バラバラの便利設定を1つの「箱」に。Plugin で仕事環境をまるごと配る
前回、バラバラだった便利設定を1つの「箱」(Plugin)にまとめた。
新しいPCでも、人に渡しても、同じ仕組みがそのまま動く。
便利になった。
でも、しばらく使っていると、こんな場面に出くわす。
「経費の費目、前にも『これは交通費じゃなく会議費だよ』って直したのに、また交通費にしてる」
「この前と同じ説明を、また最初から書いてる気がする」
Claudeは、毎回まっさらな状態でセッションを始める。
だから、昨日教えたことを、今日はもう覚えていない。
毎回ゼロから説明し直す。これが、地味にストレスになってくる。
今回は、ここに手を入れる。
Claudeに「覚えて育つ記憶」を持たせる。
自分が書くルールとは別に、Claude自身が学びを書きためていくしくみ。
使うほど、こちらの好みや文脈を覚えていく記憶を作る。
1. 2種類の記憶
Claudeの記憶には、2種類ある。
ここを分けて考えると、一気にわかりやすくなる。
| 記憶 | 誰が書く | 中身 |
|---|---|---|
| CLAUDE.md | 自分 | 守ってほしいルール・前提 |
| 自動メモリ | Claude | 作業中に気づいた学び・好み |
中級第1弾で作った CLAUDE.md は、自分が書くルールだった。
「申請者はこの名前」「費目はこの分類で」「返事は日本語で」。
毎回必ず読んでもらう、固定の前提。これは今回も変わらない。
今回足すのは、もう一つの記憶。自動メモリだ。
これは、自分ではなくClaudeが書く。
作業しているうちに「あ、この人はこういうのを好むんだな」と気づいたことを、Claudeが自分でメモに残していく。
人の仕事でたとえるなら、こうだ。
CLAUDE.md は、入社初日に渡す「就業マニュアル」。
自動メモリは、本人が日々書きためる「業務メモ・引き継ぎノート」。
マニュアルは会社が用意する。メモは本人が育てる。
両方そろって、はじめて「使えるスタッフ」になる。

2. 「覚えておいて」と頼むだけ
自動メモリの使い方は、拍子抜けするほど簡単だ。
「これ、覚えておいて」と頼むだけ。
たとえば経費精算で、費目を一度直したあとに、こう言う。
タクシー代は移動なら交通費、打ち合わせ場所への移動でも交通費でいい。
会議費にしないで。これ覚えておいて。
すると、Claudeはこの学びを記憶ファイルに書き残す。
次にこの仕事を頼んだとき、もう同じ間違いをしない。
書きためた記憶は、/memory で確認できる。
/memory
ここで、いま読み込まれている記憶の一覧と、ON/OFFの切り替えが見られる。

記憶は、自分のPCの中のこの場所にたまっていく。
~/.claude/projects/<プロジェクト>/memory/
├── MEMORY.md ← 目次
├── expense-rules.md ← 経費まわりの学び
└── ...
MEMORY.md は、記憶全体の目次だ。
ここがよくできている。
起動時にClaudeが読むのは、この目次の先頭だけ。
細かい中身が書かれた個別ファイルは、必要になったときだけ読みに行く。
前回のPluginで、Skillが「最初は名前だけ、使うときに中身を読む」という段階読みをしていたのを覚えているだろうか。
記憶も同じ考え方だ。
全部を毎回読み込むと重くなる。だから目次だけ持っておいて、要るときに詳細を開く。
だから記憶が増えても、起動は重くならない。

自動メモリは、新しめのバージョンで使える機能です。
claude --versionで確認できます。初期状態でオンになっているので、特別な設定はいりません。
3. CLAUDE.md・メモリ・Skill、どこに何を書く
道具が増えてくると、「これはどこに書けばいいの?」と迷う。
目安はこうだ。
| 書きたいこと | 置き場所 |
|---|---|
| 必ず守ってほしいルール・前提 | CLAUDE.md |
| 作業中の気づき・こちらの好み | 自動メモリ(Claudeに任せる) |
| 何ステップもある決まった作業手順 | Skill |
迷ったときの分け方は、シンプルだ。
「自分が決めて守らせたいこと」は CLAUDE.md。
「Claudeが使いながら覚えていくこと」は自動メモリ。
たとえば「申請者名は山田太郎」は、自分が決めるルールだから CLAUDE.md。
「この店の領収書は、合計金額が一番下に小さく出る」は、作業中に気づく学びだから自動メモリ。
書き分けに迷ったら、Claudeに直接言えばいい。
「これは CLAUDE.md に入れて」と頼めばルールとして、「覚えておいて」と頼めば自動メモリとして残る。
ちなみに、記憶を「ルール/好み/プロジェクト/参考」のように分類して整理する流儀もあります。便利な工夫ですが、決まった正解ではありません。まずは「自分が書くルール」と「Claudeが書く学び」の2つだけ押さえれば十分です。
4. 🛠️ 経費精算の箱に、記憶を育てる
前回作った経費精算の箱(expense-toolkit)を、今回は「育てて」みる。
やることは、たった3つだ。
ステップ1:一度、訂正する
まず、前回作った箱を手元で読み込む。
claude --plugin-dir ./expense-toolkit
そのうえで、いつもどおり経費精算を頼む。
/expense-toolkit:expense-check 今月の領収書をまとめて
出てきたCSVを見ると、並びが気に入らなかったとする。

内容が先に来ていて、見たい費目が後ろになっている。
そこで、こう直す。
CSVの並びは、日付・費目・内容の順にして。
そのほうが見やすい。
ここまでは、中級でもやっていた、ふつうの訂正だ。
ステップ2:「覚えておいて」と一言足す
ここが今回の新しいところ。
訂正のあとに、一言足すだけ。
この並び順、次からも同じでいい。覚えておいて。
Claudeは「わかりました、覚えておきます」と返し、記憶ファイルに書き残す。
/memory で中身を見てみると、こんなメモができている。

自分でファイルを開いて書いたわけではない。
Claudeが、自分で書いた。
ステップ3:次の日、もう一度頼む
セッションを閉じて、別の日にまた頼む。
/expense-toolkit:expense-check 先月分もまとめて
今度は、何も言っていないのに、最初から日付・費目・内容の順で出てくる。

同じ訂正を、二度しなくてよくなった。
これが「覚えて育つ」感覚だ。
使えば使うほど、こちらの好みや、現場の細かいクセを、Claudeが覚えていく。
経費精算だけじゃない。
記事の文体、議事録のまとめ方、メールの言い回し。
繰り返し直していたことが、一度言えば済むようになる。
5. 記憶は「覚え書き」であって「命令」ではない
ここで、正直に書いておきたいことがある。
自動メモリは、強力だ。でも、万能ではない。
記憶は、Claudeに渡される「覚え書き」であって、絶対に守られる命令ではない。
たいていは覚えたとおりに動くが、文脈しだいで外れることもある。
だから、こう使い分ける。
| やりたいこと | 使う道具 |
|---|---|
| 好みや文脈を覚えさせたい | 自動メモリ |
| 絶対に止めたい操作がある | Hook(中級第4弾) |
たとえば「本番フォルダのファイルは絶対に消させない」のような、事故ったら取り返しのつかない操作。
これを記憶に頼ってはいけない。
「消さないでって覚えさせたのに、消しちゃった」では遅い。
確実に止めたいことは、中級第4弾で作った Hook で、しくみとして止める。
記憶は「賢くする」道具。Hookは「止める」道具。
役割が違う。ここを混ぜないことが大事だ。

6. よくある失敗
失敗1:記憶を貯めっぱなしにする
便利だからと何でも覚えさせていると、古い記憶がたまっていく。
「前のプロジェクトのルール」が残っていて、いまの判断を狂わせることがある。
ときどき /memory で中身を見て、もう要らない記憶は消す。
ノートも、古いページは破って捨てるから使いやすい。記憶も同じだ。
失敗2:秘密情報を覚えさせる
これが一番こわい。
APIキー、パスワード、Slackのトークン。
こういう秘密情報は、絶対に記憶へ書かせない。
「この鍵を覚えておいて」は、やってはいけない。
鍵は、記憶ではなく、自分のPCの設定(環境変数など)に持つ。前回の箱と同じ考え方だ。
失敗3:本来ルールにすべきことまで記憶任せにする
「申請者名」「費目の分類」のような、毎回必ず守ってほしい固定のルール。
これは自動メモリではなく、CLAUDE.md に自分の手で書く。
記憶は「覚えていたら使う」もの。確実に毎回効かせたいルールは、自分で書いて固定する。
守らせたいルールは自分の手で。覚えてほしい学びはClaudeに。
今日から試せる一歩
いつもClaudeに、同じ訂正をしていないだろうか。
「そうじゃなくて、こうして」と、毎回言い直していること。
それを1つ思い出して、次にやるとき、こう足してみる。
(いつもの訂正)。これ、覚えておいて。
たったこれだけ。
次に同じ仕事を頼んだとき、言わなくても直っていたら、成功だ。
そうやって一度言えば済むことを、1つずつ増やしていく。
記憶は、一気に作り込むものじゃない。
毎日の小さな訂正を、Claudeに覚えてもらいながら、少しずつ育てていくものだ。
前回、自分の仕組みを「箱」にして、持ち運べるようにした。
今回、その箱に「覚えて育つ記憶」を足した。
箱は配れて、中の道具は使うほど賢くなる。
ここまで来ると、次に欲がわいてくる。
「この仕組み、毎回自分で起動するのも、そろそろ面倒だな」
次回はそこに手を入れる。
起動すら、自分でしない。
決まった時間に、勝手に動き出すしくみ。
「一行で起動」の、その先へ進む。
参考リンク
Memory をもっと深く知りたい人は、公式ドキュメントが一番正確です。